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東京高等裁判所 昭和39年(う)644号 判決

控訴人 被告人 篠崎四郎

弁護人 小堀文雄

検察官 大泉重道

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役五月及び罰金五千円に処する。

原審における未決勾留日数中三〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納できないときは金二百五十円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は記録に綴つてある弁護人小堀文雄作成の控訴趣意書記載のとおりであるからこれを引用し、これに対し当裁判所は次のように判断する。

論旨第一点について。

所論は、原判決は判示第一において被告人と山岸保雄とが共謀の上原判示日時場所において賭博場を開張し利を図つた旨認定しているが、当夜の榎戸方における賭博は被告人等が関与するまでもなく榎戸の招集によつて既に開かれることに決つていたもので、被告人等によつて開設されたものではないのに拘わらず原判決が前記のように認定したことは明らかに事実誤認であると主張する。

思うに賭博場開張罪は利益を得る目的を以て犯人自ら主宰者となりその支配の下に他人をして賭博をなさしめるべき場所を開設することによつて成立するものであつて、その場所は必らずしも犯人自らが設営したものに限らず他人の予め設営した場所を利用することを妨げず、又自ら賭客を招集することも要しないものと解すべきである。そこで本件につき原判決挙示の関係各証拠を検討してみるに、三月二〇日夜榎戸方で行われた賭博は榎戸、関口等によつて既に予定されていたものであつて、参集した者も別に被告人等が招集したわけではないことが認められるが、それはいわゆる玄人の参加しない「ナイガイ」と俗称されるもので、胴元もなく寺銭も徴収しないものであつたところ、被告人等は右賭博の計画あることを聞知するや、右の場所が自己の所属する博徒の団体である白土組の縄張り内であるところからこれに参加して賭博を主宰しようと企て、榎戸に対し「二、三人連れて行くから」と申し向け、内心迷惑がつていた同人を承諾させた上同夜被告人等相伴つて榎戸方に赴き参集者と共に賭博を始めたが、被告人等は「コイコイ」の賭金を自ら提案して一文二十円と定め更にこれを五十円に増額し、且つ場所の提供者に対する礼金や交通費、敗者に対する車賃等に供するため賭者から寺銭を徴収することを提案し被告人らにおいてこれを各人から徴収したり、また中盆をつとめる等していたことが認められるのであつて、かかる事実関係のもとにおいては被告人が山岸と共同して当夜の賭博を主宰したと目すべきであるから被告人等が本件賭博場を開張したものと認めるに何等妨げはなく結局原判示は正当である。所論は事実誤認を主張しながら併せて原判決の法令解釈適用の誤を主張するものの如くであるけれども、いずれにせよ原判決には右の点に関し事実誤認法令の解釈適用の誤はないから論旨は理由がない。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 長谷川成二 判事 小川泉 判事 金末和雄)

弁護人小堀文雄の控訴趣旨第一点

原判決は罪となるべき事実として

被告人篠崎四郎は山岸保雄と

第一共謀の上昭和三七年三月二十日午后九時頃より、同日十一時頃まで、真岡市西田井六三四番地榎戸鶴方居宅四畳半間において賭博場を開張し、榎戸鶴、関口喜一、中里文雄、石川好一、海老原修等をして花札を使用し、現金を賭し、俗に「アトサキコイコイ」と称する賭博をなさしめ賭者より寺銭を徴収し、利を図り、と事実を認定し、被告人篠崎と山岸が共謀して賭場を開して、寺銭を徴収したことを理由に処断しているが、これは事実の誤認も甚しい。被告人篠崎は昭和三七年三月二〇日、榎戸方に赴きたるは、山岸の勧めに従つて、遊び半分に行きたるものにして、当日榎戸方では同人の召集によつて賭博が行われることになつて居つたのであつて、篠崎や山岸によつて賭場が開かれたものでないことは本件記録全般並証言の供述によつて明らかである。従つて当日は被告人篠崎及山岸が榎戸方に行かなくも、同人方では既に賭博が開かれることになつて居つたのである。

故に賭場に集つた前記者達は全部控訴人篠崎の一面識もない者ばかりである。

又寺銭は榎戸が集めて、同人方の茶菓子の実費に充当されたものであつて、篠崎が集めたものでないのである。

従つて寺銭を控訴人篠崎が集めたと言うことは絶対あり得ないのである。

右の事実は其際賭場に立会つた榎戸その他の証人の証言によつて明らかな所である。

即ち原審判決は重大な事実の誤認があつて破棄せらるべきである。

(その余の控訴理由は省略する。)

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